人の力はとても多くの要素からなっていますから、人の持つ力を正確に評価することは難しいことです。そのため、どうしても一定のバイアスがかかります。典型的なバイアスが、表題の「上司は、自分と同じレベルの部下を最も高く評価する」です。より正確には、自分よりほんの少しだけ劣る部下を、です。
これは、不思議なことでも何でもありません。
乱暴に言えば、実務上の専門能力において、大抵の上司より部下の方が優秀だからです。上司になるということは、多かれ少なかれ実務から離れることになります。同時に、実務に必要な専門知識は当然進歩し続けますし、実務から離れた上司は実務能力は確実に低下してゆきます。上司と部下の専門能力が逆転するのに、それ程時間はかかりません。
ということは、自分が及ばない/知らない能力を見極めることができなければ、上司は部下の能力を正確につかむことはできないのです。
しかしながら、この現実に気付かず、上司であるということだけで、自分の方が能力が高いと勘違いする人は少なくありません。いや、むしろ、驚くほど多いのです。こうした人は、自分よりレベルの高い部下を「よく分からない奴」と、自分よりレベルの低い部下を「使えない奴」としてしか認識することができません。*)その結果として、自分が完全に理解できる部下、それは自分よりほんの少しだけ劣る部下なのですが、を最も高く評価することになるのです。
*)この状態に一度入ると、そこから抜け出すことは非常に困難です。何故なら、当人の内面においては、自分が常に一番であり、それを否定する材料はないのですから、抜け出さなければならない理由が浮かぶことは起こりえないのです。
こうした困った上司にならないためには、どうすればいいでしょうか?
残念ながら、報告書の指導のようなすぐに使えるメソッドを、私は見つけることができていません。しかし、いくつかの有効な対策はあります。
第一は、チーム全体の能力の質は、上司であるあなた自身の能力の質を上回っている(いなければならない)と、理解することです。
第二は、上司部下の関係を、指示を出す/受けるという上下の関係ではなく、チームのための諸雑用をする者(上司)とチームの実務を行う者(部下)という対等な役割分担の関係と捉えるということです。
第三は、以前に述べましたが、チームを最適化しないことです。
第四は、使い方を間違えるとひどい結果になる対策ですが、結果を重視することです。
まず、第一の対策ですが、そもそもチームというものは、同じ能力の人を集めるより、違った能力を持った人を集めて、それぞれのメンバーの能力のよいところを使うことで、一人だといくら時間を掛けてもできないことをできるようにしたり、ずっと効率よく結果を出す仕組みです。もっとも極端な例が、大会社の社長と社員全員の関係です。どんなに優秀な社長であっても、会社が必要とする業務のそれぞれについて最優秀の社員の能力と、社長のそれを比べたとき、社長がすべての業務で上回ることはあり得ません。チームの本質として、チーム全体の能力の質は、上司であるあなた自身の能力の質を上回っている(いなければならない)ということは、当たり前のことなのです。
しかし、これに気付けば、つまり「自分には分からないことがなければならない」ことに気付けば、よく分かる部下(=自分よりほんの少しだけ劣る部下)への評価には慎重になれるはずです。
第二は、部下を侮らないための心構えです。自分が上と思い込めば、部下を侮りその本質を見逃しがちになります。部下の美点、あなたを上回る点を見いだそうとすれば、自然と上下の感覚は薄れてゆくはずです。同時に、上司というあなたの役割の重要な部分の一つが、細々とした指示を出すことでなく、チームに何かあればその責めを一人で引き受けることだということに気付くと思います。
第三は、最適化されていないチームでは、コミュニケーションが活発に行われます。それをよく見ていれば、それぞれの部下がチームの中でどれほどの役割を担っているか、他のメンバーからどれほど頼りにされているか、もしくは邪魔をしているかが、分かります。つまり、一種の第三者評価を得られるということです。
第四は、仕事は結果につながるべきものです。結果が出るということは、部下の能力の証明と考えることができます。結果とその結果を出した部下との対応付けが正確であれば、結果で部下を評価することは、高いレベルの公平感、納得感を期待できます。
しかし、結果とその結果を出した部下との対応付けが不正確ならば、強い不満を抱えたメンバーばかりのチームになってしまいます。現実には、「成果の横取り」はよくあることです。特に、コミュニケーションの悪いチームにあっては、後輩の成果を先輩が奪うことは、日常と思った方がいい位だと思います。人の成果を奪う者の多くは目端の利く者で、実に巧妙にそれをやります。上司のあなたがそれに気付くことは、容易ではないと思っていた方がいいでしょう。
この意味で、結果評価の重視は取り扱いが難しく、チームを最適化しないといった方法との組み合わせることが必要です。
第一から第四、精神論の要素が強く、どれも決定的なメソッドではありません。おそらく、人を評価する決定的なメソッドなどないのだと、私は思いますし、多くの人が知っていると思います。なぜなら、「全ての人を適切に測ることができるメソッドを売ります。」という宣伝文句がついた売り込みを、人が信じるとは思えないからです。
人の評価は、難しいけど、サボったり、油断したりすれば、チームはすぐに壊れてしまうという、上司にとってやっかいで大切な仕事なのです。私は、まずい評価をしないような努力を重ねることが大切だと思います。
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