報告書は、仕事の文書の典型で、多くの場合成果そのものです。このため、上司には、部下が分かり易い報告書を作成できるよう指導することが求められます。
よく行われる指導が、いわゆる「赤を入れる」ですが、これはお勧めできません。なぜなら、「赤が入る」度に、報告書が部下のものからあなたのものへと変わるからです。
さらに、まずい点がいくつかあります。第一に、そもそもあなた自身がそれほど優れた文章を書ける訳ではないということです。第二に、報告書に書くべき内容は、部下の頭の中にあり、その内容をあなたが完全に理解しているとは限りらないということです。しかも、目の前にあるのは、不完全な、場合によっては言うべきことが書いていないかもしれない、部下の下書きにすぎないのですから。第三に、部下の文体とあなたの文体は違うでしょうし、それぞれの単語をどういう意味で使うかも、部下とあなたで違うでしょう、等等。
結局、部下の報告書に、あなたが直接手に入れると、全面的な書き直しをあなたがするか、パッチワークのような読みにくい報告書になるしかないのです。
では、どうするか?
実は、すごく簡単で、とても有効な方法があります。それは、部下の報告書を読んで、分かりにくいところを指して、「ここで、何を伝えたいの?」と聞くのです。報告書を書く段階になっているのですから、ほとんどの場合、部下は、短い適切な言葉で答えてくれるはずです。そして、あなたは部下に言うのです、「そう書いた方が分かり易いよ。」と。部下の口頭での答えは文章としては荒いかもしれませんが、それは後で簡単に直せることなので気にせずに、話したままを文章に一度書かせれば、あっという間に分かり易い報告書ができあがるはずです。あとは、細かい表現を直すように指示すれば終りです。
この方法のよいところは、
1)報告書の中身はすべて部下の言葉でできていること
2)あなたの文章力が少々低くても適切な指導ができること
3)赤入れと比較して、時間がほとんどかからないこと
です。特に、1)によって、部下がこの報告書は自分のものだと思えるのが、大切な点です。
応用編としては、このQ&Aを、報告書全体の構造を明確にすることを意識して、全体→部分へと進めれば、分かり易い全体構成とポイントの はっきりした表現の両方を手にできます。ただ、全体を見る視点と、部分を見る視点が混ざりますので、部下との話術は少し難しくなります。 この当りは、プレゼンテーションのまとめかたの項で、もう少し詳しく書きます。
当然のことですが、この方法でも報告書が分かり易くならない場合があります。ひとつには、状況が複雑で何を報告すべきか不明確である場合、他には、部下の考えがまとまっていない場合等です。前者の場合には、備忘録としてとにかく書面にする価値があるなら、備忘録であることを明示して、分かりにくいままの報告書にすべきだと思います。後者の場合には、原則として、報告書の作成を中止し、部下の仕事の進捗を待つべきです。
最後に、この項では、それほど文章力がなくても部下の報告書の指導ができることを書きましたが、上司であるあなたは高いレベルの文章力を持っていた方がいいことは言うまでもありません。最低限の教養として、木下是雄先生の名著、「 理科系の作文技術 」(中公新書 (624)) を一通り学ぶといいと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿