役割分担とチームワーク、チーム内のメンバーにそれぞれ得意な分野を受け持って貰えれば、仕事が上手くゆくと、一見相性のよい概念のように見えますが、この2つは実は非常に相性の悪い ものです。
上司のあなたが部下に安易に役割を割り振ろうとすれば、多くの場合あなたが期待するほどのチームワークは得られないでしょう。
チームにおける役割分担には、二つのタイプがあります。第一は、サイズの大きな仕事を、上司が、小さな仕事に分割して、それぞれの小さな仕事をメンバーに割り振るタイプです。第二は、チームでサイズの大きな仕事を進めるときに、成功するためにチーム内で自然発生的にメンバーの役割が生まれるタイプです。
会社全体などの様に大規模な組織(=チーム)の場合、第一のタイプによる役割分担が現実的です。総務部、企画部、営業部、開発部などのような組織構成がこれに当たります。
一方、チームという言葉から連想する規模、数人から20名程の規模では、第二の自然発生的な役割分担の方が上手くゆきます。しかし、現実には、多くの上司が、第一のタイプの役割分担を好み、チームワークの醸成に失敗することがよくあります。
そもそもこのブログは、「やがて上司になる」若い方々に向けた物なので、ここでは、話を 「数人から20名程の規模」のチームワークに限りましょう。以下、チームと言えば、数人から20名程の規模」の集団と指します。
さて、何故、上司主導の第一のタイプが好まれる一方、チームワークの醸成に失敗するのでしょうか?冷静に考えれば簡単です。
チームレベルでの「サイズの大きな仕事」をより小さな仕事に分割することが、実は非常に難しいからです。
全社レベルでの「サイズの大きな仕事」は、総務、企画、営業、開発といったようによいノウハウがありますし、この分割は何年何十年という長期にわたって価値を持ちます。
しかし、チームレベルでは、「サイズの大きな仕事」といっても長くて数年、チームマネージメントの視点で言えば数ヶ月程度の仕事ですし、仕事の多様性が非常に高くなります。要するに、内容がどんどん変わりながら、次々と仕事がやってくる状況で、常に正確により小さな仕事に分割することが、簡単な訳がありません。ましてや、それらの仕事の内容と、上司であるあなたの得意分野が一致していないときに、困難な仕事になるのは明らかでしょう。
仮に、小さな仕事への分割が成功したとしても、小さな仕事と部下のスキルとマッチングを取らなければなりません。 部下は機械ではありませんから、マッチングを考える時に、部下の好みも可能な範囲で取り込む必要があります。ここにも、根深い問題が隠れています。あなたが、部下のスキルと好みについて、正確な知識を持っている可能性は決して高くないということです。特に、専門性の高い分野においては、部下のスキルについては、ざっくりと優秀か否かは分かっても、その正確な把握は不可能です。つまり、マッチングを上司が行うことも、また難しいのです。
さらに、 「サイズの大きな仕事をより小さな仕事に分割」する仕事は、すべての仕事の最初にしなければなりません。前捌きと言われるもので、ここが遅れればそれだけ、納期までの時間を削ることになります。難しい仕事なのに、時間を掛けられないのです。
このように、チームレベルでの仕事の分割は非常に難しいのです。
上司による仕事の分割は、チームワークにはあまり役に立ちません。仕事の分割は上司の手でなされているので、メンバーは個別に仕事をすることができます。ですので、納期を守ること以外、チーム(正確には上司であるあなた)に対する責任を感じる必要はありません。上司が自分の仕事を切り分けているのだから、他のメンバーの仕事に興味を持つ必要性もありません。これでは、他のメンバーの納期遅れがあってチームの仕事に遅れが出た時に、そのメンバーを非難する風土はできても、チームワークは醸成されることはありません。
ポリティカルな側面として、上司主導の第一のタイプの役割分担においては、チームレベルでの仕事の分割は、部下の仕事を決めることなので、上司の権力の発露の場以外の何物でもありません。あなたが常に適切な役割分担を生み出すことができれば、当初部下から大変尊敬され、やがてそれが当たり前のことになってゆくでしょう(割が合いませんが、そんなものです)。
しかし、あなたが時折であっても、不適切な役割分担をしてしまえば、当然仕事はスムーズに行かないですし、それは次々やってくる仕事への時間を圧迫することになりますから、あなたは部下から「仕事が分かっていないバカな上司」というレッテルを貼られるでしょう。
まとめると、上司主導の第一のタイプの役割分担を目指すということは、よほどの幸運がない限り、現場のことを知らないで、権力ばかり振りかざして、アホな業務付与を続ける迷惑な上司への道を選択することになるのです。いつも自分が有能なつもりで、仕事が上手くゆかない場合には自分のことを棚に上げて部下を無能呼ばわりするこの手の上司、けっこういますよね(笑)。
逆に、仕事の分解とマッチングが難しいからと、考え無しに第二のタイプのチーム内で自然発生的役割分担を目指すと、なんでもかんでも部下に仕事を丸投げする仕事をしない無能な上司になってしまいます。
第二のタイプを目指す時の上司の仕事とは、チーム内に役割分担が自然発生するための職場の風土を作り出し、それを維持することです。前に書きましたが、どんなに上手く回っているチームであっても、その内部には利害関係があります。そして、新しい仕事の役割分担を決める場は、メンバー間の利害の衝突の場となるという一面を持ちます。ですから、チームに仕事を丸投げするだけでは役割分担が自然発生することはなく、上司がチーム内の利害関係を解消することで、初めてその環境が整うのです。以下、具体的に話しましょう。
まず、第一は、チームレベルの仕事の目標の達成責任は、チームが負うことを明確にすることです。
こう書くと、「仕事の責任があいまいになり、部下がサボるようになる。」という反論がよくあります。現実には、サボる部下はいつでもサボりますし、責任感の薄い部下が上司の指示だけで責任感が向上することはありません。むしろ、「サボる/責任感のない部下に目標の達成に必須な仕事を割り振れば、それは目標達成のボトルネックになる。」というリスクを考えるべきなのです。上司の仕事は、仕事の目標を達成することが目的であり、部下がサボらないようにすることは目標達成のための手段にすぎないのです。
次の問題は、「チームが目標達成の責任を負う」ことを、どうやってチーム内に徹底するかです 。仕事の場合、目標が多くの場合、チーム外(あなたの上司)から与えられるので、チーム内で目標を合意するという状況にはなりません。あなたのチームができるのは、どう目標を達成するかを決めることです。「どう目標を達成するか」には、仕事をどう分割するか(分解)、分割した仕事をどういう段取進めるか(段取:分解された仕事の時間的な繋がり)、それぞれの仕事をどういう手段で行うか(手段)・・・、というように、詳細化できます。この詳細化を、「チームが目標達成の責任を負う」というチームの意識を作り出すことに使うことが大切です。
そのために、まず、上司であるあなたは、仕事の分解、段取、方法の私的な計画案を、仕事を受け取るとすぐに、ひとりで可能な限り詳しく作成しましょう。これに時間をかけることは、納期を守ることが難しくなるので、駄目です。次に、私案から、部下に提示するための上司の計画案、それはあなたの私案の分解の粒度粗くし、段取に曖昧さを入れた計画案ですが、を作ります。
上司案ができたら、チーム全員を集めて、新しい仕事について説明をしましょう。そして、
「どう目標を達成するか」について、あなたの上司の計画案を、叩き台として部下に説明しましょう。その上で、チーム全体で、仕事の分解、段取、方法について、計画を立てるのです。このチームミーティングの中で、あなたは部下がそれぞれの専門性を活かして、あなたの私的な計画案より、ずっとシャープな切り口で仕事を分解し、適切な段取りと、手段を見つけて行くことを見るはずです。あなたの私案は、ミーティングが進まないときに、私案そのものではなく、私案を立てた時のあなたの考え方を、部下にヒントとして提示するためにだけ使います。あなたは、上司案を示した後は、議論が、仕事の目標からはなれあいように、細かくなりすぎないように、といった点に気を配りながら、司会に徹するのです。
司会をするあなたの大切な役割が、議論の細かさの制御です。基本的には、手段をどうするかということになると、あまりに細かすぎると判断できます。目標を達成するための手段は、たいてい複数あるので、この段階での議論には、達成可能な手段があることが分かれば十分です。議論は、仕事をどう分けるか、どういう段取りで進めるかに集中し、手段の議論は、そもそも可能なのかを含めて、分解された仕事の困難さを見積もるレベルに留めます。もう一つ、仕事の分解についても、部下の間で意見の対立が出るというのが、判断の基準になります。その場合、その時点では、チームとして仕事に対する知識が不足しているということに他なりません。無駄な議論はやめて、仕事が進んでから、再度検討すべきです。
また、分解と段取の議論が収束する前に、誰が何を担当するかという話を出さない/止めることも、あなたの重要な役割です。
一方、部下は、どういう手段で分解された仕事をするかをずっと考えながら、議論に参加しています。自分のスキル、同僚のスキルとを測り、多分ここは自分が担当することになるのだろう、あそこはあいつだなとか、マッチングも同時に考えています。
あなたが、誰がどの仕事について、どんな発言をどの程度しているか等、注意深くチームの議論を見ていれば、それだけで分解された仕事の7、8割については、適切な割振がどうなるか分かります。残りの2、3割の仕事は、誰も担当したくないであることも、分かるはずです。
ここまで来れば、あなたが、「誰がどれを担当する?」と問いかければ、7、8割の仕事については部下自身が自分がこれを担当すると言い始めるでしょうから、あなたの仕事は、誰も担当したくない2、3割の仕事の担当を指名することとに集約するはずです。
そして、その頃には、「チームが目標達成の責任を負う」ことが、ごく自然にチーム内に徹底されているはずです。
まとめましょう。
大きな仕事を成し遂げるには、どうしても複数の人に仕事を割り振る役割分担が必要です。しかし、その仕事に携わっている人達がチームになっている必要はありません。管理者が仕事をその開始の時点で適切に仕事を分割(仕事の分割)し、人に指示できる程仕事の内容を明確に定義(仕事の記述)でき、適切に割り振ること(仕事のマッチング)ができるのであれば、チームもチームマネージメントは不要です。いえ、チームどころか、部下すらも不要で、すべてを外部に発注することもできるはずです。
しかし、現実には、役割分担(仕事の分割・記述・マッチング)には不完全さが伴います。不完全な役割分担を、大きな仕事を成し遂げるために、走りながら修正するのがチームワークなのです。
役割分担が、チームを生み出すことはありません。一方、優れたチームは、適切な役割分担を常に生み出すのです。
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