上司の重要な仕事のひとつが、決定を下す事とよく言われます。
しかし、なんでもかんでも決めればいい訳ではありません。決定を先送りすることが大切な場合もあります。では、何が「今決める」「後で決める」を分けるのでしょうか?
それは、今部下の仕事が動いているかどうかです。
部下に仕事を指示すれば、部下が最後までその仕事をやると思うのは、大きな勘違いです。あなたの指示に納得して仕事を始めたとしても、仕事を進めれば部下の視野は広がり指示の内容に疑問や不安を持つようになることはよくあります。また、難しい問題が出てきて、想定以上に時間とコストがかかりそうとなることもあります。このような時に、部下の仕事がしばしば止まります。「このまま進めていいのだろうか」という心理になる訳です。
この時に部下を再び動かすには、部下の疑問、不安を正確に受け止めて、それらを解消する説明を与えた上で、「当初方針を維持する」「当初方針を、現在の状況に応じて変更する」のいずれか、「計画コストの範囲になるように計画と目標を見直す」「目標を維持して、計画とコストを見直す」のいずれかの決定を下す必要があります。この決定を下すまでは、部下のモチベーションは上がることはないので、「今決める」ことが大事です。
一方で、部下の仕事の進捗が、あなたの想定と違ってくる場合があります。「仕事は進んでいるようだが、その方向でいいのか?」と、上司のあなたが感じる場合です。
この時に、いきなり方向修正を部下に指示することは悪手です。
あなたがなすべきは、まず部下が当初目標を見据えているかを確認することです。部下は1ステップづつ小さな仕事を積み上げているので、その視野が狭くなって仕事の最終目標を見失うことはよくあります。最終目標を見失って仕事の方向がずれているなら、多くの場合方向修正が必要で、それは「今決める」ことが大事です。
しかし、部下が最終目標を見失っていない場合は、話は単純でありません。実務において部下の方が専門性が高いことはよくあることです。あなたが方向に疑問を持ったとしても、それが正しい見識によるものなのか、それともあなたの専門性の不足によるものなのか、意外と区別は難しいものです。こうした場合に「今決める」=自分の判断を部下に押し付けると、部下のモチベーションを大きく削ぎかねません。
部下が最終目標を見失っておらず、仕事に進捗がある場合は、冷静に仕事が期限内に終わるかどうかを見積もることが大事です。例えば、「へえ、そういうやり方があるんだ。期日的には大丈夫?」と部下に聞いた上で、「時間をとるから、そのやり方について教えてくれないか?」と、部下に依頼すべきです。部下の説明が全部理解できなくても、一定の妥当性があると感じれば、部下に任せるのがいい手です。方向修正は「後で決める」ことでいいのです。